裁判所申し立て
タイでの相続は裁判所に相続手続きの申し立てを行うことが必要です。法律上は必須ではありませんが、銀行での銀行口座解約手続きや土地局での不動産相続登記手続きには裁判所発行の審判書を要求されますので、実務上は必須といってよいでしょう。それほど、相続に関するトラブルが多いということでもあり、銀行や土地局は手続き完了後の争いを避けるためにも裁判所発行の審判書を必須にしていると推察されます。
相続執行者の選任
相続手続き申し立てにおいて相続執行者(ผู้จัดการมรดก)を選任します。
遺産管理人、相続管理人等と訳されることもありますが、相続手続きのすべてを実行する権利義務を有する法律上の役職者となりますで、当サイトにおいてはその実態に合わせて「相続執行者」と呼びますのでご了承ください。
通常は相続人のなかから一人を相続執行者として申請します。この場合、他の相続人からの同意が必要です。
また、相続執行者は複数でも構いませんが、意見が分かれた場合は多数決で行い、同数の場合は裁判所に裁決を仰ぐ必要があるため、手続きが煩雑になります。
第1711条
民商法
相続執行者は遺言または裁判所の決定により選任された者とする。
第1712条
遺言に基づく相続執行者は次のいずれかの者により選任される。
① 遺言者
② 遺言に記載された者
第1713条(裁判所による相続執行者の選任)
相続人、利害関係人、検察官は次の場合に相続執行者の選任を裁判所に請求することができる。
(1)被相続人が死亡したとき、法定相続人または受遺者が失踪している場合、または国外にいる場合、または未成年者の場合
(2)相続執行者または相続人が相続手続きまたは分割をできない、もしくはしようとしない場合、または相続手続きもしくは分割に支障のある場合
(3)理由の如何を問わず相続執行者を指定する遺言の内容が効力を生じない場合
相続執行者の指定について、遺言に指定のある場合、裁判所は遺言に基づいて選任し、遺言に指定のない場合、相続財産の利益および被相続人の意思を考慮して選任する。
審判書
裁判所での申し立て手続きが終われば裁判所から審判書が発行されますが、審判日から30日間は異議申し立て期間となります。利害関係人等からの異議申し立てがなければ、30日経過後に最終審判書が発行されることになります。
銀行、土地局等の相続手続きにおいて、審判書および最終審判書の双方が必要になります。特に最終審判書が重要となります。審判書の発行は即日の裁判所もあれば、1週間以上を要する裁判所もありますので、時間的な余裕を見ておいたほうがよいでしょう。
相続執行者の義務
- 財産目録の作成
- 相続財産の分割手続き
- 債務がある場合は債権者への弁済
相続執行者と相続人間のトラブル
相続執行者は相続手続き、遺産分割に関して強い権限を有し、すべての相続手続きを相続執行者の名の下に行うことができます。
法律上は相続人全員の代理人として中立の立場であり、他の相続人に不利益となる行為は禁止されていますが、相続執行者が他の相続人の同意なく手続きを実行したり、他の相続人の不利益となる分割を行うことも可能で、実際に相続執行者のそうした行為により相続執行者の解任申し立てや相続手続き無効の訴え等の法的争いに発展することもあります。このため、相続執行者を選任する際は注意が必要です。