相続手続き申し立ての管轄裁判所
タイ国内にある相続財産の相続手続きを行なう場合、どこの裁判所に申し立てればいいのでしょうか?
どの国の法律を適用するのか?
被相続人が外国人である場合、国際間において適用すべき法律を定める抵触法を確認する必要があります。
日本の法律
日本の抵触法である「法の適用に関する通則法」では以下のように定められています。
第36条
法の適用に関する通則法
相続は、被相続人の本国法による。
タイの法律
一方、タイの抵触法である「法の抵触に関する法律」(พ.ร.บ.ว่าด้วยการขัดกันแห่งกฎหมาย)では以下のように定められています。
第37条
法の抵触に関する法律
不動産に関する相続は、目的物の所在地法を適用する。
第38条
法定または遺言に基づく動産の相続は、死亡当時に被相続人が住所を有した地の法律を適用する。
つまり、タイ国内に相続財産がある場合、その相続財産が不動産(土地、コンドミニアム等)であればタイの法律が適用されます。
一方、動産(預貯金、有価証券、自動車等)の場合は死亡時に住所を有していた国の法律が適用されることになります。
住所地の解釈
ここで問題となるのが住所地の解釈です。
第38条に定める住所地(ภูมิลำเนา)とは民商法第37条に定める「人の住所地はその者が本拠とする地とする。」のことですが、基本的には住居登録証(タビアンバーン)の住所地に基づきますので、外国人の場合、永住権保持者または黄色の住居登録証(タビアンバーン)の保有者以外はタイ国内に住所地があるとはみなされません。最高裁判例でも、たとえタイ国内で賃貸により居住し、労働許可証を保有して就労していたとしてもタイ国内に住所地を有するとはみなさい、としています。
では、被相続人が日本に居住していた場合やタイ国内に住所地を有するとみなされない場合、日本の法律に基づいて相続手続きを行うのか、というとそうではありません。運用面では動産の相続手続きも不動産同様にタイの法律に基づいて行われるのが実情で、裁判所の審判において被相続人の死亡時の住所地が問われることは経験上ありません。
どこの裁判所に申し立てを行うのか?
では、動産、不動産ともにタイの法律に基づいて相続手続きを行うとして、どこの裁判所に申し立てを行うのでしょうか?
民事訴訟法では以下のように定めらています。
第4条の3
民事訴訟法
相続執行者選任の申し立ては被相続人の死亡時の住所地を管轄する裁判所とする。
被相続人がタイ国内に住所地がない場合は相続財産の所在地を管轄する裁判所とする。
つまり、タイ国内に住所地があればその住所地を管轄する裁判所、タイ国内に住所地がなければ相続財産のある地を管轄する裁判所、ということになりますが、外国人の場合、タイ国内に住所地を有する方以外は基本的には相続財産の所在地で判断すればいいでしょう。
なお、銀行預金の場合は口座を開設した支店のある地の裁判所となります。また、相続財産が複数あり、かつ複数の裁判管轄にまたがる場合はいずれかの裁判所に申し立てることになります。