抵触法(日本語訳)
国をまたいだ法律関係を解決するために適用する法律を定める抵触法として、日本では「法の適用に関する通則法」がありますが、タイでも「法の抵触に関する法律」(พ.ร.บ.ว่าด้วยการขัดกันแห่งกฎหมาย)という法律があります。どの場面でどの国の法律が適用されるのかの基準となる法律ですのでご参照ください。ただし、個別具体的な事案において外国法が適用されるべき場合でもタイ法が適用されることも多いようですのでご留意ください。
なお、翻訳の正確性を保証するものではありませんので、あらかじめご了承ください。
法の抵触に関する法律
第1条
本法は「1938年 法の抵触に関する法律」という。
第2条
本法は官報に掲載された日より施行する(注:官報告示日は1938年3月20日)。
第1章 総則
第3条
本法またはタイの他の法律に法の抵触を解決する規定のないとき、国際私法の一般原則を適用する。
第4条
外国法を適用すべき場合において、その外国法に基づくと適用する法律がタイ法となるときはタイ国内法を適用し、タイの法の抵触に関する法律の原則は適用しない。
第5条
外国法を適用すべき場合、タイの公序良俗に反しない限りにおいてその法律を適用する。
第6条
本国法を適用すべき場合において、2つ以上の国籍を有し、その国籍の取得に先後のある者は、その者が最後に国籍を取得した国の法律を適用する。
本国法を適用すべき場合において、2つ以上の国籍を有し、その国籍を同時に取得した者は、その者が住所を有する国の法律を適用する。その者の住所が国籍を有する国以外にあるときは訴訟提起時に住所を有する国の法律を適用する。その者の住所地が明らかでないときはその者が居所を有する国の法律を適用する。
その者の国籍に抵触がある場合において、抵触する国籍のいずれかがタイ国籍のとき、適用する本国法はタイ法とする。
無国籍者の場合、その者の住所地の法律を適用し、住所が明らかでない場合はその者が居所を有する国の法律を適用する。
本国法を適用する場合において、地域法、共同体法、宗教法を適用すべきときはその法律を適用する。
第7条
法人の国籍に抵触がある場合、その法人の国籍は本社または本店のある国の国籍とする。
第8条
外国法を適用すべき場合において、その法律の適用が適切であると裁判所に証明できないときはタイ国内法を適用する。
第9条
本法またはタイの他の法律に別段の定めがある場合を除き、法律行為の方式の完全性はその法律行為が行われた国の法律に基づく。
財産の所在地法は不動産に関する契約、文書、その他の法律行為の完全性を担保するための方式に適用する。
第2章 身分および行為能力
第10条
行為能力および無能力はその者の本国法を適用する。
本国法では無能力者または制限能力者となる外国人がタイにおいて法律行為を行う場合、タイ法に定める行為能力の範囲内においてその法律行為を行うことができる。本項の定めは親族法および相続法に基づく法律行為に適用しない。
法律行為が不動産に関する場合、その法律行為を行う者の行為能力は目的物の所在地法を適用する。
第11条
タイ国内にいる外国人が民商法第53条および第54条に定める要件によって住所および居所から失踪した場合、タイの裁判所が必要に応じて適宜指示する命令はタイ法を適用する。
その外国人を失踪者に指定する命令およびその命令の効力は、タイ国内に所在する不動産に関係しない限りにおいてその外国人の本国法を適用する。
第12条
タイの裁判所がタイ国内に住所または居所を有する外国人に対して無能力または準無能力を命じる事由はその者の本国法を適用する。ただし、タイ法が認めていない事由に基づいて無能力または準無能力を命じてはならない。
無能力または準無能力の効力は無能力または準無能力を命じた裁判所の属する国の法律を適用する。
第3章 債権
第13条
契約の重要部分または効力に対して適用する法律は、当事者の意思に基づいて決定する。意思が不明確、または意思を間接的に知ることができない場合において、当事者の国籍が同一のときは当事者の本国法を適用し、国籍が異なるときは契約を締結した地の法を適用する。
契約が遠距離にある者の間で締結された場合、承諾の通知が申込者に到達した地を契約が成立した地とみなし、その地が不明の場合は契約の行為地の法律を適用する。
契約の効力に対して適用する法律の定める方式に基づいて正当に締結された契約は無効とはならない。
第14条
事務管理または不当利得から生じた債権は、その債権の発生原因となった事実が生じた地の法律を適用する。
第15条
不法行為から生じた債権は、不法行為に至った事実が生じた地の法律を適用する。
前項の規定はタイ法において不法行為とならない、外国で生じた事実には適用しない。
いかなる場合においても、タイ法が請求を認める場合を除いて損害を受ける側は損害賠償または解決法を請求することができない。
第4章 物権
第16条
動産および不動産は目的物の所在地法を適用する。
動産を国外に移送する場合、国外に移送されたときからその目的物の所有者の本国法を適用する。
第17条
動産に関して係争中にその目的物が移転された場合、訴訟提起時にその目的物が所在した地の法律を適用する。
第5章 親族
第18条
婚約の締結または破棄に関する能力は各当事者の本国法を適用する。婚約の効力は審理および判決を行う裁判所の所属する国の法律を適用する。
第19条
婚姻要件は各当事者の本国法を適用する。
第20条
婚姻を行う国の法律に定める方式に基づいて正当に行った婚姻は有効とする。
外国においてタイ法の定める方式に基づいて正当に行ったタイに属する者同士の婚姻、またはタイに属する者と外国人との婚姻は有効とする。
第21条
婚姻当事者の国籍が同一の場合、または妻が婚姻によって夫の国籍を取得する場合、夫婦関係は両当事者の本国法を適用する。
妻が婚姻によって夫の国籍を取得しない場合、夫婦関係は夫の本国法を適用する。
第22条
婚姻前契約がない場合、夫婦間の財産は本国法を適用する。夫婦の国籍が異なる場合、夫婦間の財産は夫の本国法を適用する。不動産に関する夫婦間の財産は目的物の所在地法を適用する。
第23条
前2条に定める婚姻の効力は、夫婦の一方または双方が婚姻時に有していた、または取得した国籍と異なる国籍を婚姻後に取得した場合においても影響を受けない。
第24条
夫婦間の財産に関して、婚姻前契約を締結した場合、契約締結に関する能力は各当事者の本国法を適用する。
第25条
婚姻当事者の国籍が同一の場合、婚姻前契約の重要部分および効力は両当事者の本国法を適用する。婚姻当事者の国籍が異なる場合、婚姻前契約の重要部分および効力は婚姻当事者の意思に基づく法律、または適用を受ける意思があると推定される法律を適用する。意思が存在しない場合、婚姻当事者が婚姻後に初めて定めた住所地の法律を適用する。
不動産に関しては、目的物の所在地法を適用する。
第26条
夫婦双方の本国法が認める場合、協議による離婚は有効とする。
第27条
タイの裁判所は離婚に関する判決を行わない。ただし、夫婦双方の本国法が離婚を認める場合はこの限りではない。
離婚事由は離婚の訴えを提起する地の法律を適用する。
第28条
婚姻の取り消しは婚姻要件を適用した法律を適用する。
錯誤、詐欺または強迫を原因とする婚姻の取り消しは婚姻を行った地の法律を適用する。
第29条
嫡出子の認否は子の出生時における母親の夫の本国法を適用する。子の出生時に夫が死亡していた場合、死亡時における夫の本国法を適用する。
嫡出否認の訴えについても同一の法律を適用する。
第30条
父母と嫡出子の間における権利義務は父親の本国法を適用する。
未婚の女から出生した子の場合、母親と子の間における権利義務は母親の本国法を適用する。
第31条
子の認知は認知時における父親の本国法を適用する。認知時に父親が死亡していた場合、死亡時における父親の本国法を適用する。
第32条
親権を行使する父母のいない未成年者に対する親権の開始または終了、親権者の権利義務は未成年者の本国法を適用する。ただし、不動産に関する親権者の権限は目的物の所在地法を適用する。
タイ国内に住所または居所を有する外国籍の未成年者については、外国法に定める親権に関する機関および規則に基づけば未成年者の利益保護が適切でないと判明した場合、タイ法に基づいて親権を設定することができる。
第33条
親権の取り消しは親権の取り消しを命じた裁判所の属する国の法律を適用する。
第34条
直系尊属を民事または刑事で訴える権利は直系卑属の本国法を適用する。
第35条
養親および養子の国籍が同一の場合、養子縁組はその者の本国法を適用する。
養親と養子の国籍が異なる場合、養子縁組の能力および要件は各当事者の本国法を適用する。ただし、養親と養子の間における養子縁組の効力については養親の本国法を適用する。
養子と出生に基づく家族との間における権利義務は養子の本国法を適用する。
第36条
扶養義務は扶養を要求された者の本国法を適用する。
扶養費用を請求する権利を有する者はタイ法の定めを超えて請求することはできない。
第6章 相続
第37条
不動産に関する相続は、目的物の所在地法を適用する。
第38条
法定または遺言に基づく動産の相続は、死亡当時に被相続人が住所を有した地の法律を適用する。
第39条
遺言能力は、遺言作成時の本国法を適用する。
第40条
遺言者は本国法が定める方式、または遺言を作成する地の法律が定める方式により遺言を作成することができる。
第41条
遺言の効力および解釈、遺言または遺言内容の無効は、死亡当時に遺言者が住所を有した地の法律を適用する。
第42条
遺言または遺言内容の撤回は、遺言撤回時に遺言者が住所を有した地の法律を適用する。
遺言または遺言内容の失効は、死亡当時に遺言者が住所を有した地の法律を適用する。